個人事業主(フリーランス)として事業活動を行う際、所得の増加は喜ばしい一方で、所得税の負担増という課題も生じさせる。日本の所得税は累進課税制度を採用しており、所得が多くなるほど高い税率が適用される仕組みになっている。事業が順調に拡大し、年間所得が一定の水準を超えると、税負担が経営上の重石となり得ることも少なくない。こうした状況において、事業形態の見直しは重要な経営判断の一つとなる。
その選択肢として挙げられるのが法人成り、すなわち会社を設立することである。法人に課される法人税は、所得税とは異なる税率構造を持つ。特定の所得金額までは比例税率が適用されるため、個人の所得税率が法人税率を上回る所得帯においては、法人化した方が税負担を軽減できる可能性がある。これは、事業から得られる利益をより多く手元に残し、再投資や事業拡大の原資とすることに繋がるだろう。
さらに、法人化は経費として計上できる範囲が広がるという利点も存在する。例えば、事業主自身への給与は役員報酬として経費にでき、給与所得控除の適用も受けられる。また、家族を役員にして報酬を支払うことも可能であり、所得の分散による節税効果も期待できる。ほかにも、生命保険料や退職金の準備費用を経費に算入できるなど、個人事業主では認められない経理処理が認められる場合がある。
ただし、法人化には利点ばかりではなく、考慮すべき点も存在する。株式会社や合同会社の設立には、定款認証や登記といった法的な手続きが必要で、初期費用が発生する。加えて、社会保険への加入が義務付けられ、その保険料は個人と法人で折半して負担しなければならない。税務申告も個人の確定申告より複雑になるため、税理士への依頼費用など、事業を維持するためのコストが増加する傾向にある。設立のプロセスには専門的な知識も求められるため、事前に会社設立の手続きのやり方・流れを確認しておくことが望ましい。